人工聴覚情報学会

難聴と音楽 MUSIC

音楽コラム 


 2014年6月    「国際会議参加のご報告」をアップしました
 2013年12月31日 「人工内耳装用者の音楽活動(APSCI2013に参加して)」をアップしました
 2013年6月30日 「洗足学園音楽大学 音楽感受研究室」をアップしました。
 2012年7月15日 コラムのページに「身体で聴こう音楽会」をアップしました。
 2012年3月23日 コラムのページに「洗足学園音楽大学音楽感受研究室コンサートシリーズ」                をアップしました。




  国際会議参加ご報告ドイツ、ミュンヘン
 2014年6月

                              洗足学園音楽大学附属音楽感受研究所 
                                       研究長 松本祐二

洗足学園音楽大学附属音楽感受研究所は、2014618日から21日にドイツのミュンヘンで開催された「第13回人工内耳及び聴覚インプラント技術国際会議(13th International Conference on Cochlear Implants and other Implantable Auditory Technology)」に参加しました。

 音楽感受研究所はこの国際会議に於いて「アコースティック楽器による音楽活動が人工内耳装用者に
与える影響;音楽のアーティキュレーションを感じる(Influences that musical activities by acoustic musical instrument bring to Cochlear Implant Recipients. ; Feeling the articulation of music.)」と
題して発表をしました。

「アーティキュレーション」とは、楽曲の「特徴」です。
音楽を聴いてどのように感じるか。それは、音程や和音、旋律が聴き取れた事だけによるものではありません。音楽は、楽曲の強弱や音の勢い、テンポの緩急等が総合的に絡み合って音楽を楽しむ事になります。

 当研究所は、この課題について研究を開始し、今回の国際会議ではこの取り組みを開始した事も含めての発表を行いました(詳細はこちら)。 発表時に、資料ビデオの音声が出ないトラブルもありましたが、映像を見て頂けたことで、当研究所の取り組みは会場の研究者にご理解頂けたと思います。
国際会議は非常に多くの研究者が集まり、活気に満ちていました。
 今回の経験を基に、更に研究を深め、研究活動を進めて行きたいと思っております。



  人工内耳装用者の音楽活動(APSCI2013に参加して)
 2013年12月31日
                           洗足学園音楽大学 音楽感受研究室長 松本祐二

 APSCI2013にて  私達は研究を開始した当初、人工内耳装用者が感じている楽器音や音程の状態を調べました。その後、言葉の聞き取りを練習するように、音楽聴取も練習を重ねれば向上するのではないかと考え、装用者の方々にご協力を頂き数年間に渡って調査を致しました

 調査を続けている中で、私達は楽器音や音程の聴き分けだけが音楽を楽しむ事ではないのではないかと考え、どのようにしたら音楽を一層楽しむ事ができるのだろうかと、研究の方向性を次第に変えていきました。 楽器音を聴くだけではなく、自ら楽器を演奏してもらう事も行いました。

  例えばピアノで演奏した短いフレーズを聴いて、感じたように打楽器で表現する、このやり取りを繰り返したりしました。他には、和音の中の一つの音を私達と一緒に演奏して貰い、その和音の響きの中に自ら入り込んで貰う事もしました。 私達は、人工内耳装用者と健聴者が一緒に音楽を聴き、その前後で気分がどのように変化するのかも調査しました。結果は、両者とも同じ傾向が見られました。
 
  音楽を楽しむと言う事は、音楽を聴いて何かを感じる事だと私は思います。音楽聴取前後で気分に変化が生じないとするならば、音楽聴取は困難だと考えられます。しかし、この調査結果のような気分変化が生じている事から、音楽によって感じるものはあるといえます。
「音楽を聴いて何かを感じる」、この「何か」を説明するのは非常に難しい事です。しかし、言葉にできなくても感じる事実は存在します。この「感じる」ことが大切ではないでしょうか。楽しかったり、悲しかったり、興奮したり、不安になったり、音を聴いて感じる事が音楽を楽しむということなのだと思います。
 人工内耳で音楽を楽しむために、私達のような音楽家がサポートできる事はどのような事なのかを考えています。それは音楽を聴く練習をお手伝いすることや、一層音を感じる方法を一緒に探すことかも知れません。そして、これが音楽活動になるのだと思います。

 洗足学園音楽大学音楽感受研究室は、2013年11月26日から29日にインドのハイデラバードで開催された「第9回人工内耳及び関連科学アジアパシフィックシンポジウム(The 9th Asia Pacific Symposium on Cochlear Implant and Related Sciences)」に参加して来ました。 発表演題は「人工内耳装用者の音楽活動」とし、当研究室がこれまでに行って来た上記のような研究内容を報告しました。
 
 当研究室の名称を「音楽感受」としているのは、人は音楽をどのように感じ、どのように受け止めるのか、これを探求することを目的としているからです。 なぜ人間は音楽を必要としているか。それは「言葉の次に、心揺さぶられる何かを欲するから」だと考えます。この「何か」は人によって異なって当然です。しかし、心揺さぶられる何かを欲することは、どなたでも共通でしょう。これが音楽の持つ力なのだと私は確信しています。今後も、音楽の力をより深く研究していく所存です。 今回のシンポジウム参加にご協力を頂きました方々、そしてこのページをご提供くださいました人工聴覚情報学会に深く感謝申し上げます。

     

  洗足学園音楽大学 音楽感受研究室
  2013年6月30日 

(取材の感想をコラムに掲載しました。そちらも併せてご覧いただければと思います。)

 2013年6月15日から16日の2日間、韓国で開催された4年に1回に行われる国際会議(第20回国際耳鼻咽喉科学会議(IFOS 2013)に洗足学園音楽大学 音楽感受研究室が、人工内耳と音楽について研究発表を行ないました。洗足学園音楽大学音楽感受研究室のHPに、「人工内耳と音楽」のシンポジストとして国際会議で研究発表を行なったという記述を見つけました。

 「人工内耳と音楽」については、特定非営利活動法人 人工聴覚情報学会(以下、当NPOと略します)
も活動をすすめていることもあり、洗足学園音楽大学感受研究室の研究発表についての取材を行いました。
洗足学園音楽大学感受研究室長の松本祐二先生のことは、音楽に関心を持っている人工内耳装用者の間
では知らない方はいないというほどの著名な方であり、「人工内耳と音楽」をテーマに12年前から研究
をされています。研究開始当初は丸山典子先生と2人でしたが、現在は安里圭一郎研究員・森美咲研究員
も加わり、総勢4名とオーケストラ団の一つを抱えるまでになっています。

 質問   今回の参加のいきさつは?
 松本室長 お世話になっているS先生と連絡を取り合っていたときに、6月に 開催される IFOSで
      「人工内耳 と音楽認知」というテーマの発表者をちょうど探していている最中だった
      そうで(笑)。S先生が私たちの研究室を推薦し国際会議の主催者から招待を受け、発表をする      ことになりました。
 
 質問   発表内容は?
 松本室長 人工内耳装用者が音楽を全体で楽しむためには何が必要か(楽しむための方法論)ということ
      です。
       これは私たちが長年研究していることでもあります。私たちが参加したのは「人工内耳と音楽」
      というセクションで、人工内耳装用者が音楽を楽しむことの可能性についての発表を、求められ
      ました。

  質問   具体的にはどのような発表だったのでしょうか。
  松本室長 「人工内耳装用者の為の音楽(Music for Cochlear Implant Recipients)」というテーマで
       発表をいたしました。

  『人工内耳装用者の為の音楽(Music for Cochlear Implant Recipients)』

  人工内耳装用者が言語聴取の次に念願することは、音楽の聴取であるという日本の調査報告がある。
  しかし、人工内耳での聴こえ方から、音楽聴取を諦めてしまう装用者も少なくない。私の研究チームは、
人工内耳を装用した状態での音楽聴取の可能性を明らかにし、人工内耳に適した音楽を提供することを目的とした。
  まず、打楽器音に対する聴こえの傾向を調査し、人工内耳での聴こえを考慮した打楽器曲を作成した。
次に、音程と和音の弁別状態を調査した。演奏家によって奏された音を受動的に聴いた場合と、自ら奏して
能動的に聴いた場合の状態を調査した。そして、人工内耳装用者と健聴者に同時に曲を聴かせ、聴取前後の気分変化を調査し比較した。

 研究発表を行う松本祐二室長
打楽器音の聴こえの傾向は、トライアングルやタンバリンのような金属質の楽器音は不快に感じ、コンガやトムトムのような膜質の楽器音は快く感じる結果であった。音程の高低差の弁別は困難であった。能動的に聴取した場合は、弁別に対する意欲の向上がみられた。楽曲聴取前後の気分変化は、人工内耳装用者にも確認された。これらの結果から、音程や和音の弁別が正確でなくても、音楽による影響はあると考えられる。
人工内耳装用者の聴こえに適した音楽を聴取することによって、音楽による感動を得られる可能性はあると考える。
(洗足学園音楽大学感受研究室提供資料)

 質問   発表の中で、聴講者の反応はいかがでしたか?
 松本室長 音楽を聴いている人工内耳装用者の映像投影に、関心を示された方が多くいました。他の発表者      の資料は文献が多かったので、実際の映像は興味深かったようです。

 質問   他の発表者はどのような内容でしたか?
 松本室長 人工内耳装用者がどう音楽を取りいれているか、音楽をきいて認知できるか、という内容が多か      ったと思います。音楽の弁別、和音や音階が聴こえるのかの視点が中心でした。

 質問   最後に、今回学会で発表をしたことで、研究の方向性に、なんらかの変わりがありますか。
 松本室長 私たちの今までの研究は手さぐり状態でしたが(今も模索中ですが)、今回の学会に参加して、
      自分の研究の方向性は間違った方向ではないということを認識できました。
      なぜならば、他の研究者が発表されていることは過去に自分が考えたどってきた道だからです。
      色々な試みを行ってきましたが、私たちは「音楽は感受性」が一番大事だと考えています。
      私たちがやっている音楽を人工内耳装用の方が全ていいといってくれるわけではなく、
      そうなるとは言い切れませんが、演奏会の最後に人工内耳装用の方が「楽しかった」といってく      れるのは何なのかな?と考えた時に、結局は気持ちなのではないかと。つまりそれは「感受性」      ということだと思っています。 


この度はおめでとうございます。お忙しい中取材に応じていたたきありがとうございました。